※カルロ25歳、Moto3時代。
※ブレット出てきません。
※Jの将来ねつ造。
※オートレースの世界については適当です。
※タイトルは「21」さまより





 カルロの声に、カルロよりつぶらな青い瞳が丸くなる。
「なんだよ」
「あ、ごめん。まさか、カルロくんに名前を憶えてもらってると思わなかったから」
 そう言ってJは、十数年前と同じように人畜無害な顔ではにかんだ。




 昔の名前




 目は魂の鏡、瞳は心の窓。その喩え通り、Jのクリアなターコイズブルーは、持ち主の純朴さをそのまま表す。ミニ四駆時代から変わらない優しい心を持ち続ける青年は、カルロのパートナーと負けず劣らずの理系男子でもあった。
「グランプリが終わってからは土屋研究所にいたんだけれど、藤吉くんにどうしてもって引き抜かれちゃって。土屋博士も僕の将来に良いだろうからって」
 そう語るJは今、三国コンツェルンのモータースポーツ部門でエンジンの開発研究をしている。グランプリ時代はチームのメカニックのようなことをしていた彼の守備範囲は広く、四輪二輪はもちろん飛行機までなんでもござれだ。おまけに現場に何度も足を運ぶことも、気位の高いレーサーと共に試行錯誤することも厭わない気質を買われて、MotoGPにおける三国ワークスチームにもメカニックのひとりとしても名を連ねていた。
 ミニ四駆の数十倍はある本格レースの世界にJが関わって早7年。去年ようやく三国のサテライトチームに入り込んだカルロの、Jはいわば大先輩だった。
 同い年(らしい)大先輩は、おっとりと、しかし芯のある声で言った。
「藤吉くんからは事情は聞いてる。君のマシンは僕が担当だ。よろしくね」
 Jの握手に素直に応じると、またしても驚かれる。ぱちくりと瞬かれるターコイズブルーに、カルロは片眉を上げた。
「丸くなったって言いたそうだな」
「そっか、自覚あるんだ」
 万事控えめに見せて、言うべき時に言うべきことは言う。そんな彼の本質が垣間見えた受け答えだ。特にカルロの了承も得ず、隣に腰かける図太さも不思議と好ましい。だが、次にJが口にした言葉は少々失敗であった。
「ここまで、いろんな苦労があったんだね」
 穏やかに寄せられる同情に、カルロのあたたかいものアレルギーが頭をもたげる。カルロの抗アレルギー剤はブレットだが、残念ながら彼は遠いアメリカにいた。
「別に苦労だとは思っちゃいねえよ。マイナススタートのドブネズミが、人並みになろうとあがいてきただけだ」
 拒絶反応と共に吐き出した言葉には、不必要な卑下が多く含まれていて、カルロは自分のこらえ性のなさを恨めしく思う。人と関わらずには生きていけない、忍耐を覚えろ、そうブレットからは口酸っぱく言われていた。彼の懸念を払しょくすべく、カルロも自分を抑える努力は重ねてきたけれど、油断するとすぐこれだ。
 カルロが脳内で大反省会を繰り広げているのを尻目に、Jはカルロの卑下に特別な関心を払わなかったようだ。人間が丸くなっても、口の悪さは変わらないな程度に受け取っているのだろう。カルロには、そちらのほうが都合が良かった。
「実はいろんな人から、君の話は聞いてたんだ。元気にやってるって。ワイルドカードのレースも、藤吉くんと一緒に見てたんだけどね。良い走りで、すごく、安心した」
 驚いた、感心したではなく、安心したというJの言葉選びが引っかかる。しかも、カルロの走りを好意的に踏まえての「安心した」だ。
「なんでてめぇが、俺なんか」
 安心するとは、心配が先にあってこそ成り立つ感情だ。安心するような走りとはどういうことなのか。安定している、危ういところがないという意味か。カルロが思案している間に、その答えをJが口にする。
「僕も昔はバトルレーサーだったから。あのころの君を、他人事とは思えなくて」
「てめぇが?」
 カルロがJを知った時、彼はすでに日本を代表するTRFビクトリーズのメンバーだった。二言目には「良いレースをしよう」「楽しんで走ろう」と平和ボケした日本人らしいぬるい発言を繰り返していたチームのひとりが、バトルレース出身というのは意外な事実だ。
 今度はカルロが目を丸くして、Jを見やる。驚かれるの承知の上か、Jはペースを崩すことなく話を続けた。
「アメリカ大会で君はもうバトルをやめてたけど、周囲はほら、そう簡単に忘れない。だから4、5年前かな。烈くんから、ブレットくんと親しくやってるって聞いてほっとしたよ」
 ビクトリーズにおける、ブレットの信頼の高さがよくわかるセリフだ。あのブレットが連絡を取り続けている相手なら、あのブレットの目が行き届いているのなら、イタリア生まれのチンピラもさぞかしマトモになっていることだろう。その程度の印象操作くらい容易なブレットの、社会的な信用力を実感する。ブレットの傍らに立ち続けるために、カルロが埋めなければいけない恋人との格差そのものだった。
「…………」
 課題を見据えるカルロの隣で、不意にJの様子が変わる。所在なさげに視線をさまよわせた後、何かを決意したように息を止め、カルロを振り返った。そして、太古から人々に愛されてきた宝石の瞳にカルロを映し出す。
「あの、それで……、気を、悪くしないでほしいんだけど……。その、ブレットくんとはどうなの、最近?」
「は?」
「あ。いや。ごめん。リョウくんが、あの、変なこと言ってたから」
 リョウとはビクトリーズの鷹羽リョウか。ジュリオがご執心で、アメリカの仔豚(ポルチョリーノ)と親密だった硬派な色男の顔をカルロはどうにか思い出す。彼と接点があるとするなら、仔豚という経由地点のあるブレットのほうだ。
 いつぞやエーリッヒにそそのかされ、カルロとブレットはシュミットの誕生会に並んで出席した。その誕生会の席で、ブレットはカルロとの仲を他の出席者にカムアウトしている。祝福してくれる者、特に何の感慨も抱かない者、何も聞かなかった何も見なかったとゲイへの拒絶を分厚いオブラートで包んでくれた者など、その場にいた元グランプリレーサーたちの反応は様々だった。
 それでも一つだけ、彼ら彼女らの意見が一致したことがある。
 当時、カルロはロードレーサーとして駆け出しもいいところだったが、ブレットは実績ある宇宙飛行士としてセレブリティの仲間入りを果たしていた。いわゆるAリストに入りつつあるブレットの外聞を慮って、彼のカムアウトを「ここだけの話」に留めておくことにその場にいた誰もが賛同したのだ。ここでも、「カルロはさておきブレットのためなら」と公然と口にする誰かの存在に、カルロは自分の立場を噛みしめたものだ。あからさまな扱いの差に、傍らでブレットが気遣うような眼差しを送ってくるから余計に悔しさが残る。カルロは、一層の奮起を誓った。
 その誕生会に、Jは居合わせていない。出席者に口を滑らせた者がいないとするなら、彼はカルロとブレットの関係に自力で気づいたと言うことだ。アメリカの紅一点と繋がっているリョウか、ブレットと親しい烈からヒントは得たのだろうけれど。
 Jがカルロとブレットの関係を察した過程はさておき、もともとプライベートを吹聴してまわるタイプではないカルロは、Jの詮索に不快感をあらわにした。
「お前には関係ねえ話だろ? それとも何か、他人のゴシップが気になんのか」
 眉間に皺を寄せ、WGP時代を彷彿とさせる目つきの悪さを向ければ、Jはたやすく肩をすくませる。外見から受ける印象にたがわず、Jは押しに弱い。しかし、同時に言うべきことはやはり口にする男だった。
「ご、ごめん、本当。ただ、僕は昔から君たちを見てたから……」
「見てた?」
「アメリカの夏。良く二人で図書室にいたじゃない」
 元グランプリレーサーという共通項がある二人の間で、「アメリカの夏」と言えば、アメリカで開かれた第二回ミニ四駆世界グランプリの夏のことだ。わざわざ記憶の棚をひっくりかえさなくても、Jの言葉の意味をカルロはよくわかっている。
 日本での第一回大会の反省をもとに、いくつか変更を余儀なくされた大会規定。その中の一つ、レーサーたちの学業管理の項目にひっかかったカルロは、お節介精神を発揮したブレットの世話になっていた。図書室は、カルロがブレットの指導を受けた思い出の場所だ。
「仲良く肩並べてさ、楽しそうにしていたよね」
 レースに出るため、追試をクリアするため、勉強を教わっていただけだとは嘯けない。「楽しそう」とJは言うから。
 そうだったんだろう。傍目にはっきりとわかるほど、あのころのカルロはブレットに夢中だった。自覚があるかないかの違いだけで、彼に首ったけなところは今も同じだ。
 まるでジュリオにホームレス時代をからかわれたようなむず痒さだ。Jはにこにこと、つい昨日のことのようにカルロのむず痒さを懐かしんでいる。
「『ああ、良いな』って、思ってたんだよ」
 Jは国籍こそ日本人だが、モンゴロイドが揃うビクトリーズの中では特異な容貌をしている。やわらかそうな金髪に、チョコレートのような褐色の肌、アメリカコマドリの卵を彷彿とさせる無垢な青い瞳。だがビクトリーズのメンバーは誰一人として、そのことを指摘したり気にするそぶりを見せなかったそうだ。
 人の群れから浮き出ること、遠巻きに見られやすいことに関してならカルロも同類だ。カルロの場合は外見ではなくその言動が、近づく人間を突き放してきた。グランプリレーサーから常に遠巻きにされ、異端のレッテルを貼られてきたカルロ。そんなカルロの傍らにブレットがいる、そのことにJは素直な感動を覚えた。
「なのに秋口くらいから、君たちが一緒に入るところ見かけなくなって。君の変な噂まで流れてきたから、僕、ずっと気がかりだったんだ」
 その二人が、形を変えて今も繋がりを持ち続けている。だからJは、安堵と共に沸き起こる好奇心を抑えきれなかった。
「野次馬みたいなのは嫌だよね。本当にごめん」
 Jの告白と謝罪を、カルロは不思議な思いで受け止めていた。ジュリオや、アストロレンジャーズの二番手、ドイツのNo.2やNo.3。カルロとブレットの親交に、積極的に口を出し、関わろうとした人間はこうして数えられる程度だ。けれど、ひょっとすると自分たちは、自覚しているよりもずっと多くの人から見守られてきたのかもしれない。彼らは決してでしゃばらず押し付けず、ただ記憶する者として、またカルロとブレットを包む空気の一部として、場所を変え人を変えて二人の周囲に立ち続けた。
 その一人が今になって、Jだと知れたことは何かの僥倖だろうか。
「詫びたきゃ、てめえについて話しな」
 だからカルロは、この幸運にしばし身を委ねることにする。
「え、僕?」
「バトルやってたんだろ? そんな奴がどうしてあんなお気楽チームに入ったんだよ」
 俺にはそっちのほうがよほど気になる、とカルロはJのターコイズブルーの裏側を覗きこむ。Jの瞳はどこまでも澄んでいて、表も裏側もないような錯覚を起こさせた。
「それはね」
 Jは素直に、過去を語り始めた。気負った風もなく、特別卑下するわけでもない彼は、自分が犯した過ちに向かい合うことを恐れていない。卑しい出自や自慢にならない過去を、今なお卑屈を込めて語るしかないカルロとは対照的に。
「サバンナソルジャーズでコーチをしていたカイも仲間だった。スペインに渡って、クリーンレースに転向したのもいたよ。だけど……、一人だけ、変わらなかった人がいた」
 土方レイと、Jはその名を口にする。彼が開発したと言うシャークシステムの話には、カルロも目を見張った。邪悪な装甲をまとったJのマシンが、どれほどの力を発揮したかは対戦したサバンナソルジャーズのマシン被害を聞けばわかる。出場停止を喰らい、カルロがイタリアに帰国していた間にそんな事件が起こっていたとは知らなかった。なるほど、この話を聞いて、ドンが新型アディオダンツァの搭載にこだわったのなら納得がいく。
「何を言っても、どんなレースを見せても、レイは変わらなかったよ。強さだけが全てだって言って。僕にはレイの気持ちが最後までわからなかった」
 Jはカルロを見る。ターコイズとサファイア、二つの鉱石がぶつかり合った。
「君ならどうだい? 僕より君の方がレイに近そうだ。君ならレイを理解できるかも」
「会ったこともねえしな」
 肩をすくめるカルロに、Jが俯く。レイという存在は、Jにとって喉に刺さった小骨なのだろう。
「お前はなんで、バトルしてたんだ?」
 レイやJを操っていた、大神と言う男の話はすでに聞いた。カルロにとってのドンのような存在。Jが大神のマインドコントロールを受けていたというのなら、つけこまれるだけの心のスキがJにあったということだ。元は心穏やかなJを、執拗にバトルに駆り立てたものとは。
 カルロの問いに、Jは初めてためらいを声に乗せて答えた。
「……復讐、かな」
 Jの大切なおもちゃを壊した奴らに。Jが失ったもので楽しそうにレースしている彼らに。そんな気持ちだったから、豪や烈に見抜かれ、そして救われた。だからJは、バトルにこだわるレイへの説得に心を砕いてきた。自分にとっての豪や烈のように、レイを救う存在になりたかったのかもしれない。
「たぶんだが」
 カルロはJと違い、誰かの救いになろうだなんて考えたことがない。それどころか、他人にかかずらうことを避けながら生きてきた。袖振りあうのも他生の縁と言うのなら、カルロはその縁にすらアレルギーを起こしかねない。例外は、今のところブレットだけ。そんな自分が、昔馴染みとはいえ、特別親しかったわけでもない男の人生に分け入り、彼の謎を解く手伝いをしている。この現状をカルロは少し離れた場所から眺めながら、不可解だと、けれど決して不快ではないなと感じていた。
「聞く限りじゃ、お前とレイじゃバトルの理由が違う。奴の言葉通り、奴は『強さだけが全て』だったんだよ」
 レイに復讐心などない。おそらく彼はクリーンレースもバトルレースも知っている。知った上で彼はバトルを選んだ。そちらが正しいと思ったからだ。結局それが好きだからだ。そんな彼に、バトルの忌むべき側面を説いたところで心を動かせるわけがない。
 「すごいね」とJは言った。彼自身納得のいっていない声音だったが、一つの可能性としてカルロの意見を咀嚼しようと苦慮している。
「カルロくんもそうだったのかい?」
 Jの推測をカルロは鼻で笑う。一緒にするなと。
「俺はお前ら以下さ」
 バトルが好きでも何でもなかった。それしか知らなかったからやっていただけだ。それしか、生き残る術がなかったから。弱肉強食、獲物を狩る牙、賞金に栄光。偉そうに語っていた何もかもが、誰かの受け売りと猿真似だと気づいたのはいつ頃だったろうか。意志も信念持たないカルロは、どこぞのおとぎ話で語られる哀れな操り人形と同じだった。
「ピノッキオって知ってっか」
「あらすじぐらいは」
「俺はそれさ。人間ですらなかった」
 嘘を嘘とも思わずつき続け、自分の鼻が伸びすぎてしまっていることにすら気づいていなかった愚かなピノッキオ。その姿を真似るように、カルロは自分の鼻を指で触れ、ピュウッと自ら効果音を付けて指を高く伸ばす。知らず知らずのうちに高くなっていた哀れな鼻を、カルロはあの世界グランプリでへし折られたのだ。
 Jはもちろん、屈託を知らなそうなビクトリーズを、カルロは鼻もちならないお幸せなガキどもと嫌っていた。けれど正々堂々と走りぬくこと、マシンと共にコースを楽しむこと、そうしてチェッカーフラッグを駆け抜けた先にこそ勝利があると、誰かの受け売りではなく知っていた彼らはカルロより上等な精神を持っていたのかもしれない。と、今なら振り返ることが出来る。
「今は人間?」
「どうにかな、『らしく』なってきたんじゃねえか」
 人らしいものを何も持たなかったカルロに、言葉を与え、意思を萌芽させてくれたのは、ブレットだとカルロは信じている。Jが知る二人の関係は、その結果だ。
「あいつのおかげで、飯も旨くなったもんさ」
 食えればいい、腹に収まればいい、冷たくとも不味かろうとも、今日一日を生きるエネルギーを得られればなんだって構わなかったカルロに、ブレットは美味しさというものを教えた。限られた逢瀬で、隙あらばブレットをベッドに沈めようとするカルロをかわし、彼は料理を振る舞い、同じ食卓につくよう諭した。時に言葉を選び噛んで含ませるように、時には拳も辞さない強引さで、まれに泣き落としなんて古風な手法まで駆使しながら、ブレットは根気よく「正しい食事」をカルロの生活に組み込んでいった。
「うん、それはよくわかる」
 Jはしみじみと頷く。
「僕も大神博士のところにいた時は、ご飯がちっともおいしくなかった。土屋研究所の食堂で、博士や豪くんたちと食べたカレーに感激したんだ」
「お互い、旨い飯にありつけて良かったじゃねえか」
 Jのターコイズブルーが、カルロのサファイアブルーとぶつかる。互いに目配せを交わして、二人は肩を震わせて笑った。
「レイも、そんなご飯が食べられてるといいな」
 大丈夫さ、と無責任なことは言えず、とはいえこの場をとりまくあたたかな空気を冷やすことも気が咎めて、カルロは口を閉ざす。もう何年と顔も合わせず消息不明のレイの幸せを、願えるJの足元に及ぶくらいには、自分も人らしくなっているだろうかと思いながら。
 それからマシンのこと、レースのことをJとは話し合った。今年から変更になるレギュレーションに合わせて、エンジンを含めたマシン調整のピッチを上げていかなければいけない。
「藤吉くん、カルロくんがチームに来てからすごく張りきってるんだ。言っちゃ悪いけど、他社の人にバカにされたらしくて」
「ああ、その件なら俺も聞いた」
 三国コンツェルンがMotoGPをはじめとするモーターレースの世界に入って数年、未だ芳しい成績は残せていない。そんな状態で、どこぞの馬の骨とも知らない飛行機乗りを雇うなんて正気か、とほぼ名指しでカルロを嘲笑ったメーカーがあったらしい。
「失礼しちゃうよね」
 カルロを哂うということは、カルロの起用を決めた藤吉を哂うということだ。強いては藤吉によって招かれたJや、他のチームスタッフへの侮蔑に繋がる。Jのブルーアイズに、彼の芯の強さが闘志となって灯っていた。
「目にモノ見せてやろうぜ」
 三国チームの開発力は、決して他社にひけは取らない。結果が振るわないのは、勝負運やレーサーとの相性に恵まれてこなかったせいだ。その足りないものを自分が埋めてやる。その気概を、カルロはとびっきりの「悪い笑み」で表す。
 「お前のその顔はやばい」とブレットが認めるそれに、Jは怯えるどころかにっこりと、けれんみのない笑顔を返してきた。
「だからさ、今度藤吉くんが来た時に一緒に食事に行こうよ。作戦会議も兼ねて」
「まじで言ってんのか」
 藤吉にJにカルロで食事とは、一体どんな面子だ。しかし、発案者は満面の笑みを揺るがせない。
「もちろん。きっと楽しいよ」
 ブレット以外の誰かとの食事に、楽しみを求めたことはないカルロではあったけれど、Jの申し出は魅力的に見えた。
 仕方ない。メカニックの機嫌を損ねて嫌われては、良い走りは出来ない。付き合ってやるか。と、カルロが装う渋々そうな態度を、やはりJは笑って受け止めるのだ。




 昔の名前
 (そんな昔も、無いよりはマシってもんだ)





++++++++++
元バトルレーサー同士、Jくんとの絡みは一度書いてみたかった。
Jくんがバトルをした理由は復讐だけではないと思うし、レイの後々も気になるけれど、あくまでカルブレメインの話なので脇役はシンプルに。
100話でカルロの走りに言及してるっぽいカイとの絡みもいつか書いてみたい。

カルロを三国コンツェルン所属のレーサーにしたのは、ぶっちゃけモータースポーツの世界がよくわからなくて既存の団体に所属されてもうまく表現できないだろうと考えた苦肉の策だったんですが、おかげで藤吉くんやJくんといった面々とカルロが再び交流を持つきっかけにできてラッキー★

Jやら烈やらエーリッヒやら、WGP時代の旧知とカルロが一対一でしゃべるシチュエーションは好きです。
社交的なブレットにとってWGP関係者との会話は日常の延長線だけれど、カルロにとっては非日常なので。
とはいえ、ブレットが誰かと一対一でカルロについてのろけてる話も書いてみたいなぁ……なんて^^

2015/09/15 サイト初出

2015/09/15(火) レツゴ:チョコレートナイフ(カルブレ)
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