※ブレット19歳、カルロ18歳
※カルロは出てきません。
※MAX関連(ボルゾイ氏、MGストーン、軌道エレベーター)の記述が登場しますが、MAXの内容をうろ覚えのため、都合の良いように改ざんしています。MAXお好きな方は注意!
※ブレットアンソロ(2015.08.30.発行)寄稿作品「Baby, baby, so cute!」の続き。
※ブレットアンソロのあらすじ「ジョーが手に入れた写真に、親しげなブレットとカルロの姿が写っていた。問い詰められたブレットはカルロとの交際を白状する。パニックになった旧アストロレンジャーズの面々によって、イタリアのカルロがスカイプで呼び出され……」
※「罅割れた空、その向こうにファンタジー」「Please kiss me more and more」「ラファエルは来ない」にうっすらリンク。
※タイトルは「21」さまより





 私は戦士(ファイター)、頼りになるパワー型よ。エッジは槍使い(ランサー)、中距離も近距離もこなす便利な万能タイプね。ミラーは弓使い(アーチャー)かな、威力は弱いけれど遠距離から攻撃できるのが良い所。ハマーDは錬金術師(アルケミスト)。薬や便利なアイテムを練成してくれる、頼りになる後方支援役だわ。
 そしてブレットは、賢くて偉大な賢者(ウィザード)。パーティを目的地に導き、成すべきことを教えてくれるひと。
 ずっとそれでいいのだと思っていた。私たち五人のチームワークは完璧で、ずっと五人で旅をするのだと、足りないものなんてないんだと信じていた。




 バイブルベルト




 ブレット・アスティアは、史上最年少、15歳7か月で宇宙フライトを果たした。だが彼がこの偉大な記録に名を刻むに当たり、彼自身の知性や資質が寄与したところは少なかった。
 ボルゾイ氏失脚後、彼が建造した軌道エレベーターの根幹を成すMGストーンの研究資料が失われた。研究の多くを知ると思われた孫のネロも表舞台から姿をくらまし、宇宙開発事業は暗黒のルネッサンス時代の到来に慄くことになる。しかし、ボルゾイ一族が消えても東京上空にそびえる軌道エレベーターは依然存在し続けた。その姿は、ボルゾイ氏台頭以前まで、世界の宇宙開発をけん引してきたアメリカ、ロシアの精神を大いに刺激した。
 「独裁者」無き後の覇権をめぐり、宇宙開発分野はルネッサンスどころか大航海時代、はたまた西部開発時代を思わせる激しい競争が巻き起こった。冷戦の再来にならなかったのは、長年取り組んできた平和協調の賜物だろう。だが、アメリカ、いやN△S△は追い詰められていた。人類初の有人宇宙飛行も女性初の宇宙飛行もソ連の後塵を拝し、軌道エレベーターに関してはボルゾイ氏と同じ土俵に立つことすら叶わなかったからだ。
 非軍事であるがゆえに、N△S△はその存在基盤を政治に依拠してきた。政治とは国民の期待と支持である。N△S△に、これ以上の後れは赦されない。国際協調と国家の威信の狭間で、MGストーンと起動エレベーターのいち早い研究に邁進する傍ら、N△S△が目をつけたのは未成年者による人類初の宇宙飛行だった。
 どうせやるなら、そう簡単には塗りかえられないような記録を。そこでようやく、ブレットの名前が表舞台に現れる。ホワイトハウスにいる彼の父親の言葉を借りるなら、「高度に政治的な采配」だった。15歳のブレットは政治のレーンに乗せられ宇宙へと飛び立ち、N△S△の、しいてはアメリカ国民の期待に見事応えた。彼の存在は、次世代アストロノーツの中でも特別な地位にある。
 そんなブレットも今は19歳。宇宙デビューのころよりぐっと大人びた風貌は、アングロサクソン型のスマートなハンサムに成長した。MIT首席卒業の知性を武器に、無数のカメラやマイクの前に立っても堂々と落ち着いた受け答えができる彼は、N△S△にとっては理想的な広告塔だ。おかげで宇宙飛行士の肩書はそのまま、ブレットは今も西へ東へと多忙な毎日を過ごしている。本人も充実した日々に大満足とは言わずとも不満はないだろう。
「ご機嫌ね」
 終業時間を過ぎ、デスクを片付けるブレットにジョーは声をかける。彼とジョーの間の床には、ジュラルミン製の小型のスーツケースが置かれていた。
「休暇だからな」
 鼻歌まで奏でそうな、ブレットの上機嫌の理由がそれだけではないと知っているジョーは、不機嫌を隠さない。彼の胸ポケットにしまわれているだろう、イタリア行きのフライトチケットが問題だった。
「カルロに会えるのがそんなに嬉しい?」
 ぴたりとブレットの手が止まり、ジョーを振り向く。印象的なブルーグレイの瞳を囲う目元が厳しさを帯びた。
「誰も、幸せにならないのに」
「俺は幸せだ」
「お母さまはどう思うかしら」
 ジョーが知る限り、ブレットの母親は我が子に深い愛情を注ぐ人だ。高齢出産だった末息子に対してはなおのこと。その末息子を聖歌隊に所属させるくらい、熱心なプロテスタントでもある。
「……お前には関係ない」
 母親のことはブレット本人も悩ましく思っているのだろう。声のトーンが不必要に低い。彼だって母を愛しているだろうに、その母への後ろめたさを抱えてまで貫き通さなければいけない想いなのだろうか。あの、カルロ相手に。
 カルロとのことを、ジョーが知ったのはつい最近だった。エッジたちの協力を得て、1枚の写真におさまる二人の姿を確認した時は心臓が止まるかと思った。ブレットとジョー以外別々の職場にいる旧アストロレンジャーズを呼び集め、ブレットに問い詰めるとあっさりと真実を告白されだ。それから散々もめた果てに、時差も無視してWEB電話でカルロを呼び出させもした。
 そんな狂乱を経た今も、二人の関係にジョーは納得してない。なぜか以前から勘付いていたらしいハマーDは別にして、エッジもミラーも同じ気持ちだ。
「関係あるわ。ブレットが傷つくところなんて見たくないからよ」
 あの時と、同じセリフをジョーは繰り返す。ブレットも同じセリフで応じる。
「何度も言ったろう。お前たちに否定されることより辛いことなんか無いんだ」
「私たちはあなたを守りたいだけ」
「一体何から? カルロからか?」
「あなたの敵からよ」
 ジョーと同世代、またそれ以後のN△S△ユースにとって、最少年フライトを果たしたブレットは偉大なパイオニアでありリーダーだ。だがなにも「最年少」というブランドだけで、彼が若きエリートたちからの羨望の眼差しをうけているわけではない。ブレットの偉大さは、「最年少」ブランドを築く際にぶち破った壁にある。
 N△S△の新プランとして15歳の少年による宇宙フライトが発表されるや否や、まだ心身共に出来上がっていない未成年者を宇宙に放り出すことへの道義性についてアメリカ世論が二分された。毎日のようにブレットのことが報道され、議論のやり玉に挙げられる。人権派を名乗る過激な一派からは、人格攻撃とも取れるような非難を浴びせかけられてもいる。それこそ、15歳の少年には宇宙空間よりもつらい向かい風だった。
 ブレットを支えた信念は二つ。ひとつ、宇宙に出るために「年齢」は障壁にならないと証明すること。ひとつ、惑星移住をも視野に入れた宇宙事業において、宇宙空間が若年者に及ぼす影響はいつか誰かが検証しなければならない課題だということ。前者はブレットの後ろに控えるアストロレンジャーズやユースの後輩達のため、後者は人類の未来を思ってのものだ。
 ブレットが宇宙に踏み出した瞬間、モニターで見守っていた同期や後輩たちは拍手喝采を上げた。世論をはばかって、ブレットのミッションは軌道エレベーターの外での修復作業という比較的簡単なものに終わったが、宇宙は宇宙だ。
 未知との遭遇を待ちわびる宇宙少年少女たちは、ブレットの姿に遠くない自分たちの未来を重ねただろう。「倫理」や「道義」の壁は、技術の進歩より高く分厚く彼らの前に立ちふさがってきた。そこに風穴が空けられた歴史的光景に、ジョーを含めた誰もが歓喜せずにはいられなかった。
 そうしてブレットは、歴史に名を遺したパイオニアの仲間入りを果たし、次世代アストロノーツを目指す者たちのメシアとなった。
 無論、信者がいればアンチがいる。ブレットのやや強権的なチーム運営や先を急ぐやり方は、特に年長者の不興を買った。だが苦言を呈す者はまだマシな方だ。ジョーが胸を痛めたのは、もっと「低俗で古風な」連中だった。彼らはあまりにも若すぎる年齢での大抜擢に、ブレットの枕営業を疑った。万が一、ブレットのセクシャリティが彼らの耳に入れば、それ見たことかと攻撃してくるに違いない。もちろん、そんなことで上層部がブレットの評価を下げるなどあってはならないが、世間はどうだろう。衆目がカルロの褒められたものではない過去に向けられれば、「国家を背負って立つ宇宙飛行士にふさわしくない不品行」と取り沙汰されるおそれは捨てきれない。軍事とも経済とも一定の距離を置く、N△S△の存立基盤はいまなお脆弱だ。世論という最大の支持基盤を失うことを、この組織は常に恐れている。
「カルロに、あなたは守れないわ」
 ブレットは、カルロを指して「もうピカロではない」と言った。とはいえ、たかがイタリア空軍の一兵卒に、何ができると言うのだろう。
「あいつに守られる気なんてさらさらないさ。俺は俺、あいつはあいつの道を行くだけだ」
「そんなの、パートナーって言わないものよ。セックスフレンドが良いところね」
「……そういうのは感心しないな。品位を疑われる」
「私が女だから?」
「何をそんなに苛立ってるんだ、ジョー」
 気持ちに余裕がないとき、ジョーは気に入らないことを性差に結び付ける悪い癖がある。そこを指摘されて、ジョーはぎゅっと眉をひそめた。
「私は怒ってるの。カルロのことを気づけなかった私自身に」
 そう、もっと早く気づけても良かったはずだ。振り返れば、ブレットの変化にカルロの影響力を見てとれる機会はいくらでもあった。
 15歳の少年を宇宙に出す是非が毎日のようにテレビや新聞を賑わせていたある時、N△S△のマスコミ対応チームは起死回生のポジティブキャンペーンを打ち出した。渦中の人であるブレットを深窓に隠してしまうのではなく、彼の容姿や知性を前面に押し出すことで国民の支持を得ようとしたのだ。
 ブレットは、マスコミのインタビューに積極的に応じ、宇宙への憧れに胸を膨らませる無垢なる少年を演じた。彼の賢しげな顔立ちの中でもとりわけ印象的なブルーグレイの瞳を輝かせ、真摯で謙虚な語り口で、ブレットはマスコミの向こうにいる人々に子どもの夢を潰さないでほしいと訴えかける。
 アメリカを飛び出し、世界中のメディアで取り上げられるブレットを心配げに見つめながら、ジョーはブレットの虚像と実像のズレに違和感を抱えていた。ブレットは野心溢れる挑戦的な男のはずだ、なのにテレビに映る彼にはシニカルな笑みもアグレッシブな発言もない。ディズニー映画の小鹿のような、イノセントな姿はまるで別人に見えた。
 あれが、WGP時代のカルロの真似でなくて何なのだろう。広報チームが用意した脚本に従っているのだと、人心掌握に長けた彼の父親の入れ知恵だと、安易に考えていた自分が忌々しい。
「あなたは変わったの。カルロに関わって」
 ブレットは変わった。そうジョーの印象を決定づけるもう一つの事件も、昔のことすぎて腹立たしい。日本での世界グランプリを終え、本国でカリキュラムの査定が行われた時のことだ。
 N△S△の技術的なバックアップに加え、専用の人工衛星まで投入した優勝大本命という前評判にもかかわらず、アストロレンジャーズは第1回大会を3位で終えた。アトランティックカップでの敗北に続く結果に、本部から来た担当官が表情を曇らせるのも無理はない。だがチームリーダーであるブレットは、真っ向から噛みついた。
『そもそもミニ四駆世界グランプリへの参戦は、長いグランプリ期間を通じて訓練生がチームワークを学び、臨機応変を求められるレースで技術力や精神力を鍛えるために発案されたもののはずです。優勝できなかったことは俺自身残念に思いますが、順位だけですべてを判断してほしくありません。カリキュラムの発案者の意図をかんがみれば、俺たちが出した成果は十分に評価に耐えます』
 ブレットの反駁に、担当官は二の句を告げずに黙り込んだ。ブレットの主張の正当性や、我が子と変わらない歳の少年に過ちを正される羞恥だけが理由ではない。
 あの時まで、N△S△におけるブレットの評価は「礼儀や道理をわきまえた、超秀才」だったはずだ。天才とは変人奇人の別名であることが多い中で、ブレットは幼児性を表に出すことのない「小さな大人」として好意的に評価されてきた。
 そんな「扱いやすい優等生」が、目上の人間に反対意見を叩き付けたことに担当官は驚かされた。仲間と自分の矜持を守るために、本部から送られてきた人間に対し真っ向勝負を挑んだブレットは、まさに、ミニ四駆のカリキュラムで「成長」を果たした。N△S△の目論見はある意味で大成功を収めた。
 しかしこの一件以降、ブレットは上役や年長者が相手であろうと自分の意見(往々にして喧嘩を売るような過激な主張)を積極的に述べるようになった。正々堂々と公の場で自論を展開するブレットは、その論旨が明快なだけにN△S△の内部で賛同者を増やしていく。ブレットが冷戦時代を引きずる軍人サイドではなく純粋培養の学究の徒だったことで、とりわけ若い人材の心を掴みやすかった。
 こうなると上層部もブレットの意見を無下にできない。若い未熟さゆえに、時には大人の事情すら暴く真似をするブレットは、気づけばN△S△一番の優等生であると同時に札付きの問題児というアンビバレントな評価を持つに至ってしまった。
「俺が変わったと言うが、悪いことか?」
「おかげで敵もいっぱいね」
「敵もいない奴に何ができる」
「ほら、また。そんな言い方して、まるでカルロみたい」
 ブレットを信じるなら、カルロとブレットが想いを通じあわせたのはアメリカ大会の終わりごろだ。けれどそのさらに一年も前だったあの査定の時、すでにブレットの意識の片隅にはカルロがいた。世間に歯を剥き、自己流を通す荒馬の嘶きが刻まれていた。
 そのことを、果たして当のカルロは自覚しているのだろうか。穏当な優等生だったブレットを、身内にすら一筋縄ではいかないと警戒される存在に変えてしまった責任を感じているだろうか。とてもそうとは思えないから、ジョーの怒りは深まっていく。
『この世に綺麗ごとじゃねぇことなんてあると思うか、仔豚(ポルチョリーノ)?』
 なんてこちらをせせら笑う顔まで、簡単に思い浮かんでしまう。
「私は、あなたが強い人だって知ってる。それでも、支えてくれる人は必要よ」
 知能に置いて天才と呼ばれてきたブレットは、それ以外でもたいていのことは秀才並にこなせる。彼にとって、業務ややるべきことのほとんどは人に任せるより自分でやった方が早かった。そうして常にオーバーワーク気味の彼から、仕事を「奪い取る」ことがジョーたちアストロレンジャーズの今も変わらない役目だ。
 仕事を任されることそれ自体が栄誉、と後輩に言わしめるブレットが、心を委ねるカルロは彼のために何ができるのか。
「カルロはあなたの支えになってるの? 例えば、三年前のあの時だって、イタリアにいたあいつに何が出来たのよ」
 三年前、宇宙デビューにかかる世論や身内の白眼視のほかに、ブレットを見舞ったもう一つのトラブルがあった。それは15歳初の宇宙ミッションの直後に発覚する。彼の神秘的なブルーグレイの瞳が、宇宙空間という特殊な環境に耐え切れなかった。治療法がわかるまでの一年近くの間、ブレットは宇宙飛行士リストから外される恐怖と戦い続けた。
 ジョーは、ブレットを守りたい。ジョーひとりの想いではなく、エッジやミラー、ハマーDが共有する願いだ。だから彼のプライベートまで口を挟まずにはいられない。ブレットの話から推測する限りでは、当時士官学校に入って間もないカルロに、ブレットをフォローする余裕などなかった。
「助けてくれたさ」
 大西洋を越える甲斐性もない男だと、足元のジュラルミン製のスーツケースを見下ろすジョーに、ブレットが向けた返答は意外なものだった。
「嘘よ」
「そう思うなら、ハマーに聞いてみな」
「どうしてハマーが出てくるの?」
「三年前、俺の状況を、カルロに知らせたのがあいつだから」
 ジョーたちがカルロとブレットの関係を知った時に、ハマーDはひとり訳知り顔だった。まさか、とジョーはブレットの薄情さに瞳を剣呑とさせる。ユースの寮住まいだったころ、ブレットとハマーDは同室だったし、寮を出たあとも二年ほどルームシェアしていた。ブレットがハマーDだけにカルロとのことを打ち明けていたとしたら。あり得ない話ではない。
「クールになれよ、ジョー。俺がお前たちをえこひいきしたことあったか?」
「ないわ、だけど……」
「同室で4年近く過ごしてたんだ。嫌でも気づくことはあるさ」
 宇宙デビューの少し前、「15歳は自分の行動に責任が取れる年齢」という父親の教育方針から、ブレットはルームシェアを解消してひとり暮らしを始めていた。しかし(だからこそ、かもしれない)、ブレットの精神状態を危惧したハマーDは独断でカルロに連絡を取り、部外秘に抵触しない範囲で事情を伝えていたという。
「あいつがどうやってカルロの連絡先をつきとめたか、問い詰める気はない。だがカルロは電話をくれた。変わりないのかって、俺に探りを入れてきたよ。本気で心配したんだろうな、あいつらしくない不器用なやり方だった」
 その頃のやりとりを思い出したのか、ブレットの目尻に隠しようのないカルロへの愛しさが滲む。
 その後もカルロは、(フライト代がブレット持ちとはいえ)アメリカに足を運び、目の手術の際にはイタリアからはるばるアルプスを越えてドイツの病院まで慰問に訪れていた。
「嬉しかった。俺にはそれで十分なんだ」
 まるで誕生日に恋人からバラの花束を贈られた乙女のように、ようやく再会できた恋人に誓いのハンカチを掲げてもらえた青年のように、ブレットは微笑む。ジョーの知らない、恋するブレットがそこにいた。
 ジョーにとってブレットは、言うなれば中世ヨーロッパ風のファンタジーゲームに出てくる賢者(ウィザード)だ。ロールプレイングで定番の、パーティを引っ張る聡明な導き手。パーティーは当然アストロレンジャーズの五人で構成されていて、ジョーは戦士(ファイター)、エッジは槍使い(ランサー)、ミラーは弓使い(アーチャー)でハマーDは錬金術師(アルケミスト)が似合いだろう。パワー型も万能型もいる。遠距離攻撃も可能だし、後方支援もぬかりない。そんなパーフェクトなパーティで、ジョーたちはずっと旅をしてきた。
 けれどパーティの後ろから、いつの間にか6人目が接近していた。その存在に気付いていたのは、ブレット一人だけ。6人目の正体は、生まれ卑しい盗賊(シーフ)だった。
 不埒なトリックスターを、ウィザードはパーティに招き入れる。信用できないと主張するファイターたちに、ウィザードはこう諭す。このパーティに足りないものを、彼は持っていると。
 ウィザードの言葉通り、シーフはシーフらしい裏技でパーティに貢献する。いつしかウィザードとシーフの間には、他のメンバーとは異なる独特な信頼関係が芽生えていた。
 ……なんて話がゲームではなく、現実にありえるかしら、とジョーは訝しむ。聡明で徳高きウィザードとはみ出し者のシーフの恋なんて、と。
「ブレットって、もしかしてかなりのロマンチストかしら?」
 ここにきて、ジョーは目の前に立つブレット・アスティアという青年の認識を改める。彼をパーフェクト人間だと思いこまないよう、欠点も失敗もあるひとりの若者であることをずっと忘れないようにしてきたけれど、もっと根本的なところでブレットのことを誤解していたのかもしれない。彼は科学を信奉する現実主義者だけれど、同じくらい胸をときめかせるロマンスを信じているとしたら。
「実は『運命のひと』とか、信じてたりするのかしら?」
 その「運命のひと」が、カルロであると信じ込んでいる。だとするなら、彼の目を覚まさせるのは至難の業だ。恋する盲目さをジョーは身に沁みてわかっているから。
 ジョーの思わぬ指摘に初めは目を白黒とさせていたブレットだったが、次第に顔をほころばせ、ついには肩を震わせて笑いだす。なによ、とジョーはいぶかしんだ。
「カルロは、もう6年も前に指摘してた」
「あなたがロマンチストだって?」
 6年前と言えば、まだ日本でバックブレーダーと共にコースを走っていたころ、カルロはピカロ中のピカロだった。
「どうやらあいつは、昔から俺って人間をわかってるらしい」
 それはブレットにとっては思わぬ収穫であったようで、ニヤつくのを抑えきれない様子で口元を手で撫でている。ブレットが喜べば喜ぶほど、ジョーの胸に緑色の感情が湧いた。
「私たちよりも?」
 あなたの仲間は私たちなのに。
 あなたの誰よりも近くに、私たちはいるのに。
「近すぎると、かえって見ないこともある」
 ブレットの手がジョーの頭に触れる。慰めるように乗せられた手のひらの重みが、ジョーにミニ四駆時代を彷彿とさせた。
「だから俺はカルロを庇うんだ。あいつが大事だから。たとえ相手がお前たちでも」
 ブレットの穏やかな声が耳に痛い。いつも鼓膜の奥に染み渡り、気持ちを落ち着かせてくれる彼の声が胸に刺さる。まるで失恋したみたいだ、彼に恋もしていないのに。
 彼と出会って8年。その8年で培った何かが、カルロに負けた。悔しさより虚しさがジョーの心に押し寄せた時、新たなブレットの声が降り注ぐ。
「だが俺は、お前たちへの説得も諦めないつもりだ。同じくらいお前たちが大事だからな」
 どちらかなんて選べない、俺は欲張りだから、カルロもお前たちも欲しいんだと、頭に乗るブレットの手の重みが増した気がした。
 手のひらの下でジョーが目線を上げると、前髪の向こうで朗らかに笑うブレットがいる。威風堂々とした、いつものリーダーたる彼が。
「納得できなければ何度でも、何でも聞きに来い。お前たちが納得してくれるまで、俺は諦めないから」
 だから、今日のところはこれで勘弁してくれとブレットは肩をすくめる。腕時計を確認する姿から、フライトの時間が迫っていることが伝わった。
「わかったわ。とりあえず、今回のバカンスは笑って見送ってあげる」
「とりあえず、か……。先が思いやられるな」
 苦笑いを浮かべるブレットに、ジョーは最後に彼の誤りを指摘しようと口を開いた。
「あなた、ずっと相手がカルロだから私たちが反対してるんだと思ってるようだけど」
「違うのか」
「何よ。私たちが偏見持ちみたいじゃない。例えカルロじゃなくたって、大事なリーダーのお相手なら私たちの目は厳しくなるのよ」
 ブレットの相手が例えばシュミットだとしても、どこかのかわいらしいご令嬢だとしても、ジョーたちは間違いなく首を突っ込む。プライバシーなんて言葉を踏みつけにする宣言に、呆れを通り越したブレットが笑う。そのまま、耐えきれないというようにジョーを抱きしめてきた。男女のあれそれなんて微塵も香り立たない、家族を包むようなブレット腕の力が、やはり男女の境を越えてジョーには愛おしい。
 ブレットの抱擁を受けながら、ジョーは考える。
 ブレットは優れたウィザード。ウィザードには、ウィザードにのみ赦される特殊な魔法があった。ジョブチェンジ。ひとりに一度しか使えないその魔法があれば、戦士を錬金術師にも弓使いにもすることが出来る。薄汚い嫌われ者のシーフさえ、白銀の鎧の似合う騎士(ナイト)や勇ましい銃を携えて騎乗する竜騎兵(ドラグーン)に生まれ変われるのだ。
 カルロはもうピカロじゃないと、ブレットは言った。つまりそれは、ウィザードがシーフにジョブチェンジの呪文を唱えてやったということか。今はまだ経験値が十分でないだけで、遠くないいつの日か、ウィザードを守れる存在に彼はなるのだろうか。そんなことになったら、いよいよジョーたちはこの恋を止めることができなくなる。今でさえ、相当にやっかいな状況なのに。

 カルロは光り輝くナイトに、ドラグーンになるのかしら。
 生まれ変わったシーフに、ウィザードは微笑むのかしら。

 そんな恋も、いいのかしら……



 バイブルベルト
 (だからって、はいそうですかって認められるもんですか!)




++++++++++
バイブルベルト=アメリカでキリスト教が熱心に信仰され地域文化の一部となっている地域

カルロがブレットのおかげで更生していることは、これまでたくさん書いてきたけれど、ブレットも同じくらいカルロに影響を受け、成長してきたんだよというのをお伝えしたかったのですが、伝わってますでしょうか(笑)

ウィザードには男性の魔法使いのほかに、天才という意味もあるそうな。
ドラグーンは歴史的にはマスケット銃で武装した騎兵、中世ヨーロッパ風ファンタジーでは「竜に騎乗したランサー」が定番らしい。ぶっちゃけRPGほとんどやらないので、いろいろゲームの常識外れだったらごめんなさい。
カルロのセリフ→「この世に綺麗事じゃないことなんてあると思うのかい?」by21


2015/12/03 サイト初出
2016/4/29 ルビを追加

2015/12/03(木) レツゴ:チョコレートナイフ(カルブレ)
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