過去作品倉庫とは
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基本的に更新を終了しています。
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25.08.2011 旧ブログ初掲載
独りは嫌いだ。
人海戦術の狼と、誰もが言った。現場は生き物で、事件解決は時間との勝負だ。そこに大勢の、そして一人一人が優秀な部下でローラーをかける。そうして浮かび上がった真実を、手の内に入れることは容易かった。
人海戦術の狼。そう呼ばれたオレが、一匹オオカミになった。
独りは嫌いだ。
思考にぽっかり穴が空く。
見えなくなったのは、整然と並ぶ部下ひとりひとりの顔。奪われたのは、それぞれの調子を慮る時間と、彼らがもたらした成果を労う機会。
彼らが緊張の糸に縛られていれば、強気に笑っていられた。複雑怪奇な迷宮の中で、背後に控える命に、嗅覚が冴える。
独りは嫌いだ。
余計なことを考える。
幼いころから、周りには人が絶えなかった。長老たちは長ったらしい訓示が好きで、ガキどもは、力加減を間違えれば潰れてしまいそうな身体いっぱいで、遊べ遊べとせっついてくる。女はやさしく迎えてくれて、歳の近い野郎どもとはいつもバカらしいことを企んでいた。
男、女、子ども。
どこにいても何をしていても、オレの頭には守るべき誰かがいた。
独りは嫌いだ。
独りでもやれることはあるから。
気づけば、オヤジを飲み込んだ亡霊を追っていた。亡霊は亡霊らしく、徒手空拳で正面突破するには悪すぎる相手だ。暗闇で、拳が空をかく。あせりの中、じりじりと身体を侵食していく闇に、こういう戦いが得意だった男の面影が浮かぶ。
独りは嫌いだ。
独りが得意な男がいたから。
国際警察でも、潜入にかけてはピカイチだったその男は、潜入捜査は二人一組という基本が大嫌いだった。だから、いつもアイツは独りだったし、誰に報せることもなく姿を消した。敵に悟らせることさえ許さない腕前で、アイツは深い闇に光を差す。その軌跡を頼りに走ったことは、一度や二度じゃない。
独りは嫌いだ。
アイツは独りで死んだから。
誰かと組んでいれば、アイツからのメッセージはきちんと伝わったんだろうか。アイツの死が解決した今もまだ、アイツが手がけていた事件の精確な資料は見つかっていない。
誰かが隣にいれば、アイツの死は防げたか。その誰かがオレなら、何かが違っていただろうか。
独りは嫌いだ。
終わってしまった過去が惜しくなる。
部下がいる。いなくなったはずのヤツらは、それが最良の選択だと言いたげに、勝手にオレの元に舞い戻ってきた。日本でできた、老若男女入り乱れた奇妙な取り合わせの仲間も。皆、追い続けた亡霊と、亡霊すら操ろうとした男の残影をひとつ残らず集めるために駆け回っている。それを指示するわけでもなく眺めているオレは、まるで白痴だ。
こういうときは、オヤジのことやオフクロのこと、とうの昔に死んでいた王さんや国の皆の心に、寄り添うものだとばかり思っていたのに。オレの思考回路は止まったままで、現実はひどく遠い。
隣に立つワインレッドが動く気配に、とっさに腕を掴んだ。仕立ての良いスーツは手触りが良いが、バッジを失ったコイツはいつまでこの服を纏うのだろう。オレは、コイツの呼び方をひとつしか知らないって言うのに。
「ここにいてくれよ、検事サン」
ふり返った白い顔が、無防備に驚いている。30分前の厳しい表情が嘘のような素直さに、オレは笑いたかったけど、ぎこちないそれは、泣き顔に見えるかもしれなかった。
独りは嫌いだ。
もういないアイツの代わりを探してしまう。
この戦いの決着が、アイツの心に寄り添うものなのか、オレはまだわからずにいる。
++++++++++
検事2話でアクビーさんは密輸組織の事件を追って殉職。
検事2の4話で、密輸組織と関わるバンサイが逮捕、そして5話へ。
密輸組織の全貌が結局は明らかにならなかった、検事2のラストで、師父は何を思ったのだろう。
独りは嫌いだ。
人海戦術の狼と、誰もが言った。現場は生き物で、事件解決は時間との勝負だ。そこに大勢の、そして一人一人が優秀な部下でローラーをかける。そうして浮かび上がった真実を、手の内に入れることは容易かった。
人海戦術の狼。そう呼ばれたオレが、一匹オオカミになった。
独りは嫌いだ。
思考にぽっかり穴が空く。
見えなくなったのは、整然と並ぶ部下ひとりひとりの顔。奪われたのは、それぞれの調子を慮る時間と、彼らがもたらした成果を労う機会。
彼らが緊張の糸に縛られていれば、強気に笑っていられた。複雑怪奇な迷宮の中で、背後に控える命に、嗅覚が冴える。
独りは嫌いだ。
余計なことを考える。
幼いころから、周りには人が絶えなかった。長老たちは長ったらしい訓示が好きで、ガキどもは、力加減を間違えれば潰れてしまいそうな身体いっぱいで、遊べ遊べとせっついてくる。女はやさしく迎えてくれて、歳の近い野郎どもとはいつもバカらしいことを企んでいた。
男、女、子ども。
どこにいても何をしていても、オレの頭には守るべき誰かがいた。
独りは嫌いだ。
独りでもやれることはあるから。
気づけば、オヤジを飲み込んだ亡霊を追っていた。亡霊は亡霊らしく、徒手空拳で正面突破するには悪すぎる相手だ。暗闇で、拳が空をかく。あせりの中、じりじりと身体を侵食していく闇に、こういう戦いが得意だった男の面影が浮かぶ。
独りは嫌いだ。
独りが得意な男がいたから。
国際警察でも、潜入にかけてはピカイチだったその男は、潜入捜査は二人一組という基本が大嫌いだった。だから、いつもアイツは独りだったし、誰に報せることもなく姿を消した。敵に悟らせることさえ許さない腕前で、アイツは深い闇に光を差す。その軌跡を頼りに走ったことは、一度や二度じゃない。
独りは嫌いだ。
アイツは独りで死んだから。
誰かと組んでいれば、アイツからのメッセージはきちんと伝わったんだろうか。アイツの死が解決した今もまだ、アイツが手がけていた事件の精確な資料は見つかっていない。
誰かが隣にいれば、アイツの死は防げたか。その誰かがオレなら、何かが違っていただろうか。
独りは嫌いだ。
終わってしまった過去が惜しくなる。
部下がいる。いなくなったはずのヤツらは、それが最良の選択だと言いたげに、勝手にオレの元に舞い戻ってきた。日本でできた、老若男女入り乱れた奇妙な取り合わせの仲間も。皆、追い続けた亡霊と、亡霊すら操ろうとした男の残影をひとつ残らず集めるために駆け回っている。それを指示するわけでもなく眺めているオレは、まるで白痴だ。
こういうときは、オヤジのことやオフクロのこと、とうの昔に死んでいた王さんや国の皆の心に、寄り添うものだとばかり思っていたのに。オレの思考回路は止まったままで、現実はひどく遠い。
隣に立つワインレッドが動く気配に、とっさに腕を掴んだ。仕立ての良いスーツは手触りが良いが、バッジを失ったコイツはいつまでこの服を纏うのだろう。オレは、コイツの呼び方をひとつしか知らないって言うのに。
「ここにいてくれよ、検事サン」
ふり返った白い顔が、無防備に驚いている。30分前の厳しい表情が嘘のような素直さに、オレは笑いたかったけど、ぎこちないそれは、泣き顔に見えるかもしれなかった。
独りは嫌いだ。
もういないアイツの代わりを探してしまう。
この戦いの決着が、アイツの心に寄り添うものなのか、オレはまだわからずにいる。
++++++++++
検事2話でアクビーさんは密輸組織の事件を追って殉職。
検事2の4話で、密輸組織と関わるバンサイが逮捕、そして5話へ。
密輸組織の全貌が結局は明らかにならなかった、検事2のラストで、師父は何を思ったのだろう。
逆転検事(BL)
2016/05/08(日)
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